スタッフのコメント
そこにも、あたたかい家庭のひとコマがあった。リビングがあって、洋間があって、和室があり、日当たりの良い2階のお部屋もあった。平和な暮らしが、日常が、いつの日か、人がいなくなり、家主もいなくなった。残された もぬけの殻の建物は、住人をなくし、毎日をうらさみしい気配を漂わせながら、伸び切った庭木とともに、ひっそりとそこに佇んでいる。
物言わぬ建物は、ただ己れの行く末を案じ、誰とも知れない人たちが、にわかに出入りのはげしくなった近況に、ブルブルと軒先を揺らし、柱の木をきしませ、まるで物乞いでもするかのごとく、恐れ戦いている様相を呈していた。俎上の鯉よろしく、身をあずけた建物は、私たちのたくさんの足に踏まれながら、中に残された残置物に、さもその膿を出しきるように、次から次へと排出の行為に清々しい感情を露わにしているかのようでもある。その風情に私たちも、清々しい充足感を覚え、ゴールに辿りついた終着点に、やつれた表情を見つめ、薄汚れた顔と、噴き出す汗のしたたりに、輝きを帯びた陽射しを浴びながら、互いの栄冠を讃え合った…。